小惑星探査機「はやぶさ」が乗り越えたトラブルまとめ

2010年6月 日本が打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」の帰還ニュースに世界中が熱狂に包まれました。

そして2020年12月 はやぶさの後継機である「はやぶさ2」がターゲット天体「リュウグウ」の調査を終えて、いよいよ地球に帰還します。

はやぶさ2は今のところ大きなトラブルなどはなく、計画通りのミッションを遂行しています。
本当に素晴らしいの一言です。

しかし、これは単に運が良かっただけでなく、前身のはやぶさでの失敗やトラブルを糧に、技術者と科学者が築きあげた英知の結晶なのです。

今回の記事では、このはやぶさ2の快進撃の裏にある「はやぶさ」が直面したトラブルをまとめていきます。

イオンエンジンのトラブル

まず、初めのトラブルは、はやぶさのターゲット天体である小惑星「イトカワ」に行く途中で起こりました。

世界で初めて小惑星探査機に搭載された「イオンエンジン(電気推進エンジン)」4基のうちの1つ(A系)が動かないことが判明したのです。

イオンエンジン
イオンエンジンは、マイクロ波によってキセノンをプラズマ化し、電気的に加速させ、その反力により推進力を得るエンジンのことです。

イオンエンジンの原理については下記の動画がわかりやすいので、ご覧ください。

しかし、このようなケースは宇宙工学の世界では起こりうる事象で、このようなケースにも耐えうる機器構成になっています。

搭載した4基のうち、他の3基(B系,C系,D系)を使い、計画通り運航することができました。

リアクションホイールのトラブル

イオンエンジンのトラブル以降、順調に運行し小惑星「イトカワ」に到着したはやぶさでしたが、ある致命的なトラブルが起きてしまいます。

リアクションホイール(RW)が故障してしまったのです。
しかも3つのうち2つ故障してしまったのです。

リアクションホイール
探査機の姿勢を制御するために設置されている装置。
人工衛星や探査機の制御方式には様々な方式があるが、はやぶさでは「ゼロモーメント3軸姿勢制御」を採用している。

これはなかなか致命的で1基のリアクションホイールだけでは、探査機を正確に制御することはできません。

この問題を解決するために、本来、小惑星滞在時の軌道制御など軌道の微調整に使用する姿勢制御スラスタ(RCS)で代用することで、姿勢制御を行わざるを得なくなってしまいました。

本来の使用目的でないので、リアクションホイールを使う場合より制御精度が落ちることはもちろん、化学燃料を余分に消費してしまうため、探査機の寿命が短くなるという問題もありました。

余談ですが、リアクションホイールが2つ壊れて一番困るのは、探査機の運用者の方です。
この場合、姿勢制御スラスタと併用して探査機運用を行わなければならないため、新たな訓練が必要となります。

そのため、オペレータと機器担当者とが大喧嘩になったそうです。
このようなプロジェクトの裏側を知りたい人は、下の本に詳しく書いてあるので読んでみるといいかもしれません。

サンプル回収機器のトラブル

そんなこんなで、トラブル続きのはやぶさですが、なんとかこのプロジェクトのメインである「サンプル回収」ができる状態までやってきます。

はやぶさのサンプル回収方法は、はやぶさがイトカワに着陸した瞬間に、「サンプラーホーン」と呼ばれる機器から弾丸を繰り出し、舞い上がったイトカワの成分を捕獲し、1秒も満たない間にイトカワから離脱するというものでした。

参考までに「サンプラーホーン」についての解説がこちらになります。
https://www.jaxa.jp/article/special/hayabusa/yano_j.html

しかし、ここでもトラブル発生!!

はやぶさは2回イトカワへ着陸を試みましたが、両方ともサンプラーホーンから弾丸が出なかったのです。

この原因は以下のようなものでした。

1回目の原因: 着陸の際、探査機にとって危険な障害物があると自動的に弾丸発射を止めるプログラムが組み込まれており、これが作動した

2回目の原因: 弾丸発射の際、探査機がある一定以上傾いていると、弾丸発射の反作用により探査機の軌道が制御できなくなることから、弾丸発射を止めるプログラムが組み込まれており、これが作動した

しかし、それでも科学者たちはあきらめません。

着陸した際にイトカワの物質の破片が付着しているはずだと考えたのです。
イトカワは質量が非常に小さいため、重力が小さくわずかでも衝撃があれば物質が舞い上がって収集され、カプセルに収納されるというのです。しかも80%の確率であるといったらしいです。

結果からみると、その通りでしたね。

燃料漏れトラブル

さらに、トラブルは続きます。

2度目のイトカワ着陸の際、姿勢制御に使用していた姿勢制御スラスタの燃料弁を閉める指令がうまくいかず、燃料漏れが起きてしまったのです。

これまで、リアクションホイールを補うために使っていた姿勢制御スラスタも使えなくなり、はやぶさは絶体絶命のピンチになります。

普通ならあきらめてしまう状況ですが、これにも技術者、科学者は思慮試行します。

最終的に、使用可能な3基のイオンエンジンをそれぞれ交互に起動することで、軌道制御することになりました。

しかし、これによりはやぶさは、地球への帰還予定を当初の2007年から3年延長して2010年6月にせざるを得なくなりました。

最悪のトラブル発生!! はやぶさが消えた!?

技術者、科学者の試行錯誤のおかげで、やっと帰還の道が見えたかに思えたはやぶさでしたが、最大級のトラブルが発生します。

はやぶさとの通信が途切れてしまったのです。

この広い宇宙の真ん中ではやぶさは迷子になってしまったのです。

臼田の大口径アンテナではやぶさの電波を待つこと1か月、ようやく電波を確認し、はやぶさの状態を確認することができました。

よくあきらめなかったなというのが、正直なところですね。
(立案から打ち上げにかけた年月を考えれば、それもそうか…)

イオンエンジンの全停止

ようやく、はやぶさが地球への帰還ルートに入りそうになった2009年11月

「イオンエンジンの全停止」

これは私もすごく覚えていて、さすがにもう無理だろと思いました。
さすがにJAXA内でも、ネガティブな雰囲気があったようです。


しかし、ある技術者がアイディアを絞り出します。
そのアイディアというのはこういうものです。

イオンエンジンは、「イオン源」と「中和器」という機器がセットで成り立っており、「イオン源」が正の電荷を帯びたキセノンガスを噴出し、中和器がマイナスの電荷をもつ電子を放出する役割を持っている。

はやぶさのイオンエンジンの故障は、各系(A,B,C,D)の「イオン源」か「中和器」のどちらかが故障している状態であるため、故障していない者同士を組み合わせて使うことで、小さい推進力が得られるのではないか

詳細は下記サイトをご覧ください。
https://www.jaxa.jp/article/special/hayabusareturn/kuninaka01_j.html

ここでは記載しませんが、実際にはこのクロス回路の設計にも裏話があり、上で紹介した書籍で書かれています。
まさに、奇跡だなとおもうようなエピソードです。


実際にこの手法が成功し、たくさんのトラブルや困難を乗り越えて、はやぶさは60億km、7年間という途方もなく長い旅を終えました。

ここでのトラブルに対する対応策がはやぶさ2にはたくさん施されています。

そして、はやぶさ2は何事もなかったかのように今年の12月に地球に帰還してくるのでしょう。
私も楽しみに帰還を待ちたいと思います。

本当に技術者の方すごいな。

参考書籍

・ニッポン宇宙開発秘史
専門知識がなくても、すらすら読める本です。
はやぶさだけでなく、その他の宇宙プロジェクトの秘話が詰まっています。
220ページほどありますが、面白すぎてすらすら読めるので2時間くらいで読んでしまいました。



・人工衛星の仕組み事典
人工衛星の細部まで知りたい人向けの本。
図解が多いので直感的にわかりやすいです。
はやぶさ2の特集ページは必見です。



・人工衛星の”なぜ”を科学する
大手衛星メーカーのNECが手掛ける人工衛星のすべてを網羅した本です。
数式はほとんど出てきませんが、人工衛星の製造から運用までカバーされているので、読みやすいですし専門的なことも学べると思います。

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