今年の12月に帰還予定の小惑星探査機「はやぶさ2」
この探査機は2010年に奇跡の帰還を果たした探査機「はやぶさ」の後継機として、小惑星「リュウグウ」の調査を行っていました。
私は惑星科学を勉強しているので、はやぶさ2の探査が自然科学や今後のミッションに与えるインパクトが大きいと理解しています。
しかし、多くの方は、次のように考えているかもしれません。
実は小惑星には種類があり、はやぶさ2がターゲットする「リュウグウ」は、はやぶさのターゲット天体である「イトカワ」と小惑星を形成する物質が異なります。
はやぶさ2の探査目的のキーワードは「初期地球の起源と進化、生命の材料」です。
本記事では「はやぶさ2の科学的な目標」を解説します。
これを理解することで、はやぶさ2の帰還がより楽しみになるかもしれませんよ。
はやぶさ2の科学的意義
まず、JAXAのはやぶさ2プロジェクト特設サイトから、はやぶさ2の科学的な意義について引用してみます。
小惑星には、太陽系ができた当初の原材料が残っていると考えられているんだね。
だから、小惑星からその原材料をとってきて詳しく分析することで、太陽系初期の環境、地球や生命を作った原材料について詳しく解明しようとしているわけだね。
はやぶさ2の具体的な理学目標
JAXAのはやぶさ2プロジェクト特設サイトには、上に挙げた科学的な意義に基づく具体的な理学目標が2つ記載されています。
- 理学目標1:太陽系における物質進化過程の謎解きC型小惑星の物質科学的特性を調べる。特に鉱物-水-有機物の相互作用を明らかにする。
- 理学目標2:微惑星の物理進化過程の謎解き小惑星の再集積過程・内部構造・地下物質の直接探査により、小惑星の形成過程を調べる。
以下で詳しく解説します。
理学目標1
我々が住む地球を含め太陽系の天体は、太陽系が形成された当時に存在した微惑星と呼ばれる小天体からできたと考えられています。
そのため、これらの微惑星の材料や天体衝突などによる物質進化の過程を理解することで、太陽系がどのようにできたのか、地球の過去過去環境はどのようであったか、生物がどのような物質から生まれたのか、などの謎を解く手掛かりになります。
その手がかりをつかむ最有力候補として小惑星がターゲットになったのです。
小惑星の種類
小惑星はその物質成分によって次のように種類に分類されます。
炭素系の物質が主成分であり、今まで発見された小惑星の約75%がC型小惑星に分類される。
C型小惑星は、その中でもB型、F型、G型に分かれるが、ここでは説明を割愛する。詳しくはこちら。
・S型小惑星
ケイ酸と鉄、マグネシウムなどの鉱物化合物を主成分とする小惑星であり、今まで発見された小惑星の約17%を占める。
探査機「はやぶさ」のターゲット天体である「イトカワ」がこれにあたる。
・M型小惑星
ニッケルや鉄等の金属で構成される小惑星。太陽系形成当時、惑星同士の衝突などにより内部の金属核が分離してできたものだと考えられている。
理学目標1では、地球形成当時の生命の原材料物質の調査を目標にしており、
「生命にとって重要な材料である炭素(炭素化合物)がどのように地球に供給されたか」を調べるために、C型小惑星をターゲットしています。
なぜ小惑星には太陽系形成当時の物質が残っているのか?
地球は元は微惑星と呼ばれる小天体が引力によって集まり、形成されたと考えられています。
そのため、地球内部の岩石を調べれば、その当時の環境がわかりそうですが、そうもいきません。
というのも、惑星が誕生する際には、天体同士の衝突により大量の熱が発生しマグマのようなどろどろの状態になっていたようなのです。
このような高温状態においては、物質は性質を変えてしまうため(熱変性作用)、現在の地球の岩石からは形成当時の情報を正しく読み取ることができないのです。
一方で惑星形成の源になっていた小惑星は質量が小さく、内部で熱が発生したとしてもそれを保持しておくことができず、直ちに外部へ放出されます。また、重力が小さいため大気もほとんど存在しません。
このことから物質を変質させる要因も風化・浸食などによる劣化もほとんどないと考えられ、太陽系形成時の物質が当時のまま保存されている可能性があるのです。
理学目標2
理学目標2では、以下の2点の解明に焦点を当てています。
・小惑星自体がどのようなプロセスのもと形成されたのか
・小惑星の内部構造や内部物質がどのようなものか
小惑星の内部物質
はやぶさでは、世界で初めて月以外の天体のサンプルを入手することに成功しました。
これは素晴らしい偉業です。
しかし、はやぶさでは小惑星の表面のサンプルしか採取していませんでした。
先ほどは、小惑星が大気がほとんどないと言いましたが、はやぶさが持ち帰ってきたサンプルには、若干の風化の痕跡があったようです。
そうなると、厳密には太陽系形成当時の材料が変わってしまっている可能性もあります。
そのため、表面だけではなく小惑星内部の物質もサンプルリターンしたくなります。
また、はやぶさ2の目指す「リュウグウ」の内部には、生命に欠かせない水が氷の状態で存在している可能性が示唆されています。
これは、生命の起源やなぜ太陽系で地球だけが液体の水を保持できるのかという疑問へのヒントを与えてくれるかもしれません。
このような目的のため、はやぶさ2は「インパクター」という小惑星に人工的なクレーターを作る機器を積んでいます。
この機器で作ったクレーターの内部のサンプルを持ち帰り、実験室で詳細な調査が行われます。
参考書籍
・小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦
基本的には、JAXAホームページに載っている情報をうまくまとめた感じの本です。
ただ、JAXAのホームページはどこに見たい情報があるのかわかりづらいですし、誤字も多いです。その点では、本書は各章ごとにまとまりはあるので、手元に置いておいて、調べたいときにすぐに確認できるのでお勧めです。
・宇宙生物学入門
小惑星について書かれているのは数ページですが、小惑星と生命の原材料についてとても分かりやすく、かつ、詳細に解説されています。
アストロバイオロジー分野を勉強したい学生に最初に読んでもらいたい一冊ですね。