海水が塩辛いことは皆さんご存じだとは思いますが、なぜ塩辛いのでしょうか?
川や湖の水は塩辛くないのに、何が違うのでしょうか?
今回の記事は、
「海水はなぜ塩辛いのか」を科学的視点から解説します。
海水の化学成分と塩辛さの原因
まず初めに、海水の成分についてみてみましょう。
以下のグラフは海水に含まれている成分とその割合を示しています。
これを見ると、まず海水は水と塩分に分けることができます。
ここで「塩分」とは、一般的に私たちが料理などで使う塩分ではなく、海水中に溶けている化学的な「塩」の割合を表しています。
塩は多くの場合、中和反応の結果として生じます。
以下の中和反応の化学反応式を見てください。
塩酸(酸)と水酸化ナトリウム(塩基)を反応させると、塩化ナトリウムと水になることがわかります。
この時の塩化ナトリウムが塩(えん)に相当します。
海水中には、上の図に示すように塩分として、NaCl(塩化ナトリウム), MgCl2(塩化マグネシウム), MgSO4(硫酸マグネシウム), Ca(NO3)2(硝酸カルシウム), KCl(塩化カリウム)などが含まれており、それらの合計は海水全体の3.5%に相当します。
さらに、総塩分量の約8割をNaCl(塩化ナトリウム)が占めています。
NaClは私たちが日ごろ調理の際に使用する塩(しお)の成分であり、海水にはこのNaClが多く含まれていることから、人間は海水を塩辛く感じるのです。
NaClの起源は?
前章で解説した通り、NaClをはじめとした海水中の塩分は、中和反応によって副次的に生産されます。
しかし、現在の広大な海の3.5%に相当する塩を生成するためには、長い年月ゆっくりと中和反応が行われ続けなければなりません。
地球が形成された当時の海は、火山活動により大気中に放出された塩酸ガスや亜硫酸ガスを多く含んでいたため、酸性の海洋でした。
このような酸性の海洋は、大陸や近くに含まれる、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムなどの鉱物を海に溶かしだしました
これらの溶け出した鉱物は水溶液中では陽イオンとして存在するため、酸性の海洋と中和反応を引き起こし、約1億年という年月をかけて現在のような中性な海洋を完成されたと考えられています。
私たちが普段使っている塩がそのような太古の地球の名残だと考えると、少し感慨深くないですか?
海水の塩辛さは場所によって変わる
海水の塩辛さはどこに行っても同じように感じますが、厳密には地域によって濃淡があります。
もう少し正確に言うと、海水の組成のうち塩分に相当する割合(平均は3.5%)が海域によって異なるため、海水の塩辛さには地域特性があります。
蒸発作用により水だけが大気中に放出される一方、塩分はそのまま海水中に残ります。
このことにより海水中の塩分濃度が高まります。
・極域
水が氷に変化する際、水の分子だけが結晶化(氷)します。したがって、水分は氷として海水から取り除かれるが、塩分は同じ量だけ海水中に取り残されるのです。
このことにより海水中の塩分濃度が上昇します。
・河口付近
河口付近は河川からの塩分濃度の非常に低い淡水が流入するため、海水の塩分濃度が薄められます。
大陸近くでは、淡水によって薄められてた海水が海流に流されることによって、比較的塩分濃度が低くなる傾向があります。
これらの塩分濃度の特性は、定性的な議論だけではなく、地球周回衛星「Aquarius」の収集データからも顕著に読み取ることができます。
青いところが塩分濃度の低いところを示しており、大陸のそばがきれいに青く縁どられているのがわかりますね。
参考資料
今回の記事を書く上で参考にした資料を以下に紹介します。
今回は東京大学 大気海洋研究所 教授の蒲生先生の著書である「海洋地球化学」を参考にしました。
海洋について化学の観点で体系的に書かれており、図表も豊富、レイアウトも見やすいので初学者におすすめの本です。
図書館に置いてあるのを見たことがないので、買うしかない&高いのが玉に瑕ですが、この分野を学ぶ学部生は必見の参考書かなと思います。
まとめ
海水が塩辛い理由をまとめると次のようになります。
「地球が形成された太古に、火山活動によって放出された塩素ガスや亜硫酸ガスを含んだ海水が岩石と反応してナトリウムなどの鉱物を溶かし、海水中で中和反応することによってNaCl(塩)を多量に含んだ海水となったため」
となります。